業務における傾聴と暗黙知の重要性について

業務における傾聴と暗黙知の重要性について

こんにちは、グローバルシステム本部Data&BIチームの野町です。

今回の記事では、私が仕事をする上で大切にしている2つのポイント「傾聴」と「暗黙知」について紹介していこうと思います。

自己紹介と仕事内容

■自己紹介と仕事内容

GMOリサーチには2018年に派遣社員として入社し、2020年から正社員として就業、2023年1月からマネージャーをやらせてもらってます。

私が所属しているData&&BIチームは何をしているところか一言でいうと、社内のデータ活用の促進です。GMOリサーチにはGoogle Cloudなどをベースとしたデータ分析基盤があり、様々なアプリケーションやデータベースから分析に利用するデータが毎日同期されています。それらデータをLooker StudioなどのBI(ビジネスインテリジェンス)を使って可視化し、KPIなどの進捗把握や日々の業務効率化に活用しています。チーム目下の課題は、データガバナンスの強化と社内におけるデータドリブン文化の醸成です。

■入社するまでの経歴

こんな私がGMOリサーチに入社する前の経歴ですが決して誇れる内容ではありません。大学を卒業する時期が就職氷河期であり、フリーターをしながら自分探しする潮流がもてはやされた時代でもあったため、ご多分に漏れず自分探しとして非正規雇用で数社を点々とし、結果的に金融事務、営業、開発、経理、デスクリサーチなど様々な業界と職種を経験しました。

GMOリサーチに入社して5年以上が経過し、人生で最も職歴が長い会社になりました。比較的自由にやらせてくれる風通しのよい風土が自分にはあっているのだと思います。

※以前インタビューしてもらった記事はこちら
TOEIC215点アップや7ヶ月で12kgのダイエットを達成したデータアナリストに「継続のコツ」を聞いてみた

今回は、このような経歴を持つ私がGMOリサーチで仕事をする上で大切にしている「傾聴する事」と「相手の暗黙知に配慮して対話する事」について言語化してみようと思います。

日々直面する問題

日々の主な仕事は、業務側の要望に応えてSQLでデータ抽出を行ったり、BIツールでダッシュボードを作成することです。データアナリストとデータエンジニアの中間のようなことをやっています。このときデータ分析のフレームワークであるPPDACサイクルを念頭に置いて進めています。

PPDACサイクルとは

  • Problem(問題): 解決が必要な問題を特定し明確に定義する。問題は具体的かつ明瞭でなければならず、何を達成する必要があるのかについて理解を深めることを目指す。
  • Plan(計画): 問題に対する解決策を計画する。どのようなデータが必要か、それをどのように収集・整理し、どのように分析するかなど具体的な行動計画の立案。
  • Data(データ): 計画したとおりにデータを収集し、必要に応じて整理する。データの質と量は、以降の解析の精度や信頼性に直結する。
  • Analysis(分析): 収集したデータを分析する。グラフを作成したり、統計的方法を用いてデータのパターンを把握し、データに基づく洞察を得る。
  • Conclusion(結論): 分析結果を基に結論を導き出す。この結論をもとに問題の解決に取り組む。

参照:PPDACサイクルについて参考になるサイト 総務省統計局「なるほど統計学園」>上級TOP>12.問題の解決

PPDACサイクルを念頭において仕事を進める中で、個人的に難しいと感じる点はPPDACのP(Plan)とD(Data)の部分です。
これらのプロセスでは業務側の要望を理解して、候補となるデータの構造を調査して理解した上で、データ抽出の要件に落とし込みます。まず何のためのデータ抽出なのか、依頼者の普段行っている業務や依頼の背景を知る必要があります。

そして業務側はシステム側のデータ構造について知らないことが多いため、データ構造を説明しながらP(Plan)の調整を進めていくことになります。言い換えると、相手側の背景や知識を教えてもらったうえで、相手に新しいことを知ってもらいながら、意向を取り入れて進めることになります。この過程の中で、傾聴と暗黙知への配慮が重要になってきます。前置きが長くなりましたが、今回お伝えしたいポイントがやっと登場しました。

本質的な問題はコミュニケーションの難しさ

業務側の十分な理解とコミュニケーションがない状態で進んだ場合、どのようなことになるのかというと、開発とデータ分析では多少の登場人物の違いはありますが、有名な風刺画「顧客が本当に必要だったもの」の展開となります。依頼者自身も必要とするものがわかっておらず、作る側も気が付かずに最後まで行ってしまう残念なパターンです。

失敗しないためには、「顧客が本当に必要なもの」をあらかじめしっかりと分析して依頼者と合意し、関係者の間でそれを共有することが重要な第一歩となります。

画像引用元:ニコニコ大百科 顧客が本当に必要だったもの

傾聴と暗黙知について

データ分析を徒労で終わらせないために、私が特に大事にしている傾聴と暗黙知について説明していきます。

傾聴

傾聴とは、相手の話を注意深く聞き、理解しようとするコミュニケーションの一部です。ただ聞くだけではなく、相手の感情や意見を理解することを内包しています。

傾聴の主な特徴と重要性:

  • 共感と理解: 傾聴は、自分の立場や意見を一時的に置き去りにし、話し手の視点を理解することに重点を置く。
  • 非言語的な反応: 頷く、目を合わせる、適時に反応を示すなど、聞き手の非言語的な反応も傾聴に含まれる。これにより話し手は自分が理解されていると感じる。
  • 対話推進: 聞き手が質問をしたり、時々自分の理解をまとめて話し手に示すことで、話し手は話を進めやすくなる。
  • 無批判: 傾聴者は注意深く聞き、話し手の立場や意見を評価したり判断したりせず、単に存在すると認識する。

暗黙知

暗黙知とは、他人と共有することや、言葉で表現することが難しい知識のことを指します。暗黙知は個々人の経験に基づいて形成され、具体的な行動、過程、意識的な考えを通じて身につけられます。暗黙知は経験知ともいわれ、暗黙知の対概念として形式知があります。

暗黙知の主な特徴:

  • 形式化や言語化が困難: 暗黙知は個人の感覚や経験に基づくため、その知識を伝えるのが難しい。
  • 個人の経験に基づく: 暗黙知は、個々の経験や観察から自然に生まれる。たとえば、専門技術やクラフトマンシップは、その分野で長年の経験を持つ人々からしか習得できない。
  • 具体的な行動に現れる: 暗黙知は具体的な行動や反応によって現れる。たとえば、独自の解決策を思いつき実行する能力や、難しい状況を直感的に把握する力は暗黙知の一部。

暗黙知と形式知の関係を氷山に例えた図

画像引用元:Wikipedia ウィキ太郎(Wiki Taro) – 投稿者自身による著作物

関連論点を踏まえさらに考察してみる

傾聴とEQ

傾聴はEQと密接に関わっています。少しEQの説明をしておきます。EQ(Emotional Intelligence:感情知能)とは、自分自身の感情と他人の感情を理解し、管理し、利用して、目標を達成する能力のことで1990年に米国の心理学者によって提唱された理論です。

EQは以下の4つの領域(ブランチ)から成り立つとされています。

  1. 感情の識別(Identify):自分と相手の感情を識別する
  2. 感情の利用(Use):問題・課題を解決するために感情を生み出す
  3. 感情の理解(Understand):今起こっている感情の原因を理解し、その変化を予測する
  4. 感情の調整(Manage):他の3つの能力を発揮し、望ましい決定をするために感情を活用する

引用元:「EQ」は感情をうまく使う能力 4つのブランチで構成(日経BizGate)

高いEQを持つことは、他人を正確に理解し、共感する能力は人間関係を築く基盤となるため、個人的な成功だけでなく、仕事でリーダーシップを発揮するための重要なスキルと言われています。
あらためて傾聴の説明を思い出してみると、EQの4つの領域とほぼ同じことを言っているように見え、傾聴はEQの各側面を向上させるスキルだということが読み取れます。

暗黙知への理解はナレッジマネジメントとして組織にとって重要

次は暗黙知をナレッジマネジメントの観点から掘り下げてみます。ナレッジマネジメントとは、組織内の知識を効率的に活用するフレームワークです。ナレッジマネジメントにおいて、暗黙知と形式知は中心的な概念を形成します。

暗黙知の説明は前述のとおりですが、暗黙知に対する形式知とは、言語、数式、マニュアルなどで表現できる明確化された知識であり、他人と容易に共有することができます。

ナレッジマネジメントにおける重要な課題は、これら2つの形態のナレッジをいかに効果的に管理し、組織の利益のために活用するかという点にあります。特に暗黙知を形式知に変換するプロセスは重要です。たとえば、ベテラン社員がどのように特定のタスクを遂行しているかを観察し、それを手順書にまとめたり、教育プログラムに取り入れることで組織全体でその知識を共有し、新入社員のトレーニングに活用できます。

しかし、暗黙知を形式知に変換するプロセスは、暗黙知が個々の経験や感覚に基づき、形式化や言語化が難しいという本質的な性質ゆえに一筋縄ではいきません。そこで、個人が自らの経験や知識を共有する意欲や能力、さらには組織がそのプロセスをサポートする文化とシステムが必要となってきます。

暗黙知を形式知に変換する手法として「SECIモデル」があります。SECIモデルは、野中郁次郎と竹内弘高の著書 The Knowledge Creating Company において提唱されました。

SECIモデルは以下の4つの概念から説明されます。

画像引用元:Wikipedia タバコはマーダー – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0

  • 共同化(Socialization):組織内の個人、または小グループでの暗黙知の共有、およびそれを基にした新たな暗黙知の創造。
  • 表出化(Externalization):各個人、小グループが有する暗黙知を形式知として洗い出すこと。
  • 結合化(Combination):洗い出された形式知を組み合わせ、それを基に新たな知識を創造すること。
  • 内面化(Internalization):新たに創造された知識を組織に広め、新たな暗黙知として習得すること。

組織としてナレッジマネジメント、暗黙知から形式知への変換を重要視しているかどうかは、持続可能で強い組織になれるかどうかに直結すると感じます。たとえば、属人的な業務を担っていた社員が異動や退職をした際にナレッジマネジメントの仕組みがない場合は、ノウハウが継承されず現場に大きな混乱とナレッジの断絶が生じます。ちなみにGMOインターネットグループではNASAシステムというナレッジを共有する仕組みがあり、グループ全体としてナレッジの共有に取り組んでいます。

まとめ

また昨今話題のChatGPTなどのAIから効率的な指示を引き出すためのプロンプトエンジニアリングも、言い換えればAIの暗黙知を配慮することだと思います。相手が人であれAIであれ、対話するものの意図や背景、暗黙知を読み取って、コミュニケーションを図ろうとする試みはこれからの時代でさらに重要性を増していくのではないでしょうか。

以上、長くなってしまいましたが、皆さんの心にひっかかるものを少しでも提供できたのであれば幸いです。

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